「未払法人税等」は、当期に発生した法人税等(法人税・住民税および事業税)の未納額を処理するために使用する勘定科目です。法人税・住民税および事業税は一会計期間に法人が取得した所得に対して課税されるため、その未納付分を当期の負債として計上します。
では、未払法人税等とはなにか? どんな税金を対象にしているのか、いつ使用するものなのか、詳しく解説します。
未払法人税等とは? 勘定科目の内容と仮払法人税等との違いを解説
未払法人税等とはこれから払う税金を表す勘定科目
未払法人税等は当期分の法人税等のうち、まだ納付していない額を計上する勘定科目です。法人は、決算日の翌日から2か月以内に確定申告を行い、最終的な所得に基づいて税額を計算し納付します。納付日が決算日より後になるので、確定した税額の未払分を「未払法人税等」という勘定科目で計上し、当期の決算に入れます。
ただし、この「未払法人税等」は、納めなければならない法人税を期日までに納めていない。という訳ではありません。決算日を過ぎ、所得が確定されてはじめて納付額が確定するため、事業年度末の時点において納付することは不可能なのです。
未払法人税等と似た勘定科目「仮払法人税等」との違いとは?
仮払法人税等とは、中間申告等による法人税等の仮払いの税額を処理する勘定科目で、資産に計上されます。会社が支払う税金のうち法人税や住民税・事業税は、会社の課税所得(益金-損金)に対して課税される税金です。
会計上ではこの税金を総称して「法人税等」と呼びます。この法人税等について中間申告義務のある法人は、決算で税額が確定する前に中間申告を行い、所定の方法により算出した税額を仮払い(中間納付)します。この仮払法人税等は決算後、税額が確定した際に控除することができ、その差額を未払法人税等として計上します。
未払法人税等に含まれる税金の種類は3つある
1.法人(所得)税|事業の所得にかかる税金
法人税は、法人の所得に対して課税される国税です。課税所得に一定の法人税率を乗じて納税額が算出されます。黒字の所得に対する税金であること、支払い方法が直接税(税金を納める人と負担する人が同じ)であることが特徴として挙げられます。
法人税率は最大で23.20%となるため、言い換えればどれだけ黒字になってもそれ以上は税率は上がりません。納期は確定申告時期と同様、決算日の翌日から2か月以内です。
また、前年度の法人税が20万円を超える場合は中間申告の義務が発生します。
2.法人事業税|都道府県に事業所等を構える法人にかかる税金
法人事業税は、法人の行う事業に対して、その事業の事務所または事業所の所在する都道府県が課す地方税です。前身は営業税と言い、課税所得に法人事業税率を乗じて算出されます。
したがって、所得が黒字の場合にのみ課税されます。また、法人税に予定納税の義務が発生している場合は、法人事業税についても予定納税の義務が発生します。
3.法人住民税|法人にかかる都道府県税および市町村税
法人住民税は、法人の所在地がある都道府県と市町村から課税される地方税です。県税と市税はそれぞれの都道府県や市区町村に納める必要があります。法人住民税は、課税所得から算出された法人税額に住民税率を乗じた税額となる「法人税割」と、法人の資本金や従業員数から算出される「均等割」の2部構成です。
法人税割は、法人税額から算出されるため、黒字の場合にのみ課税されます。ただし、均等割は法人の資本金や人数によって課税されるため、赤字の場合でも課税対象です。また、事業年度が半年を超え、法人税の予定納税が10万円を超える場合は、法人住民税の予定納税義務が発生します。ただし最終的に、その事業年度が赤字だった場合は、予定納付した法人税割は均等割と相殺可能です。
決算から納税までの流れ|未払法人税等の計上
ここまで未払法人税等の概要をお話してきましたが、ご理解いただけたでしょうか? ここからはさらに理解を深めるため、決算から納税までの具体的な流れを見ていくことにしましょう。
決算から納税までの流れから未払法人税等の計上タイミングを確認しよう
- 決算整理を行って税引前当期純利益を確定する:
在庫の棚卸や減価償却費の計算、決算整理を行った上で当期の決算処理を行い、当期の損益金額を確定させます。 - 税引前当期純利益から法人税等の金額を算出する:
前項で確定した税引前当期純利益を基に、当期に納税する法人税等の金額を算出します。 - 算出した法人税等の額を未払法人税等を用いて仕訳する:
前項で算出した法人税等の金額から、仮払法人税等の額を差し引いた金額を未払法人税等の勘定科目を使って仕訳を行います。 - 税引後当期純利益を確定する:
前項で仕訳を反映させて、税引後当期純利益を確定します。 - 決算書や確定申告書を完成させる:
前項で算出したそれぞれの金額を元に、決算書や確定申告書を作成し提出準備を整えます。 - 納税する:
法人税等の納税を行い、その支払いを計上します。
未払法人税等計上の必要性
法人は、決算の時点では法人税等の納付が終わっていないことがほとんどです。なぜなら、事業年度が終わるまでは最終的な利益が確定しないため、納税額を算出することもできず、税金を納めることができないからです。これは、期日までに納付するべき税金を納めていない、ということではありません。
法人は決算日の翌日から2か月以内に確定申告を行い、その最終的な所得より算出した税金を納付することが義務付けられています。この時、時系列に差が生じるため、当期に納める税額を「未払法人税等」の科目で負債として計上します。
また、相手側の勘定科目に「法人税等」を使って同額を経費として計上しましょう。貸借対照表上に未払法人税等として計上される金額は、当期に確定した法人税等の金額から、中間納付による金額を控除した額で負債として計上します。
未払法人税の仕訳例|4パターンを紹介
仕訳例1|決算で未払法人税等を計上したとき
未払法人税等を使った仕訳が必要になるのは、決算時です。決算日の財産状況の情報から法人税や住民税・事業税の確定年税額となる法人税等の金額を算出します。算出した税額をもとに未払法人税等を用いて仕訳すると、以下のとおりです。
【例】決算にあたって、今期の法人税等確定年税額は5,000,000円だった。
法人税等 5,000,000 / 未払法人税等 5,000,000 |
仕訳例2|法人税の納税をしたとき
未払法人税等に計上した税額は、決算日の翌日から2か月以内に納付します。例えばその納税金額を、同額の小切手を振り出して支払った場合は、以下のような仕訳になります。
【例】未払分として計上してあった法人税・法人住民税・法人事業税、5,000,000円を小切手を振り出し納付した。
未払法人税等 5,000,000 / 当座預金 5,000,000 |
仕訳例3|あらかじめ法人税を中間納付していた場合の未払法人税等の計上
法人税等を計算したらまず、中間申告等で納付した「仮払法人税等」に計上されている金額を控除します。そして残りを「未払法人税等」へ計上します。この場合の仕訳は以下の通りです。
【例】決算にあたって、今期の法人税等確定年税額は5,000,000円だった。決算日までに中間納付した仮払法人税等の額は3,250,000円だった。
法人税等 5,000,000 / 仮払法人税等 3,250,000 未払法人税等 1,750,000 |
仕訳例4|決算で確定した納税額が中間納付額を下回り差額が出たとき
未払法人税等に計上した金額が中間納付額を下回り、未払法人税等がマイナスになることがあります。当期の益が前年と比べて少なく、決算で確定した納税額よりも中間納税額が大きかった等の理由が挙げられます。
マイナスになった未払法人税等の金額は、その超過分を未収法人税等として計上し、「未払法人税等」は使用しません。確定申告時に法人税等の額を上回った予定納税額は還付されるため、仕訳は以下のようになります。
【例】当期の確定年税額は1,000,000円、中間納付額は1,200,000円だった。なお、超過納付分は確定申告後に還付される。
法人税等 1,000,000 / 仮払法人税等 1,200,000 未収法人税等 200,000 |
法人税納付にあたって注意したい点
納付を滞納してしまうと延滞税が生じる
未払法人税等に計上した税金は、原則として決算日の翌日から2か月以内が納付期限です。この期限を過ぎると延滞税が発生します。
延滞税 = 税金の額 × 延滞税の割合 × 日数 ÷ 365(1円未満切り捨て)
期限を過ぎると、日を追うごとに延滞税が加算されます。税金を滞納すると、税務署や地方自治体から督促状が届いたり、督促の電話がかかってきたりすることがあります。万が一連絡が来たら、早めに納付しましょう。
督促があっても支払わなかった場合は滞納処分になることも
督促状が届いても無視して滞納を続けた場合は、最終手段として差し押さえ(滞納処分)が実施されることがあります。差し押さえの対象となる財産は、預貯金や売掛金、不動産等です。
売掛金を差し押さえられてしまうと、取引先に差し押さえの事実を知られてしまい、信用が失われ、その後の取引にも影響が出てしまうでしょう。そうなる前に、もし税金が支払えないのであれば、まず税務署や地方自治体に相談することが大切です。
大企業が用いるタックスクッションとは? 追徴課税を免れる工夫
大企業では、わざと納税額より過大な未払法人税等を計上する「タックスクッション」と呼ばれる記帳テクニックが登場することがあります。決算後は監査等の複雑な会計処理に時間を費やしたり、厳密な会計基準を実施したりする大企業が、納付期限までに正確な税額を算出しきれないことが多々あります。
そのため、少しゆとりを持たせて計上することで、細かい計算をする前でも法人税等の納税額が不足するという自体を回避可能です。ただし、財務諸表を見る人(株主)が、会社状況を誤解しない範囲でタックスクッションを設定する必要があります。
未払法人税等の勘定科目・仕訳方法まとめ
「未払法人税等」は決算時と納付時に使用する勘定科目です。出番は少ない勘定科目ですが、当期の「法人税等」の額を正しく計上する上でとても重要な役割を果たしていることがわかりました。
似たような言葉がいくつも出てきますが、税金の仮払いや納付についてきちんと理解すると、仕訳や勘定科目についても理解が深まります。これを機に、しっかりと身に付けることをおすすめします。